危機一髪(発)!一触即発で即出発

  • 2020.07.17 Friday
  • 16:56

JUGEMテーマ:横浜

ご実家はどちらなんですか?と聞かれたら、ハマスタから1.6kmの所なんです。と答えるようにしている。
へぇ〜いい所ですね。などと、たいがい言ってもらえる。

紛れもない事実だが、この表現で、あることを隠している。
ハマスタから1.6kmというと西側ならみなとみらい、東側なら石川町、元町あたり。
実家は石川町寄りだが、もう少し南の内陸側にある。そう、ブッソーなエリアに近い。
ブログに書いたら7割モザイクが入るくらいの出来事に、こどもの頃から何度も遭遇している。
そのおかげで、危険回避能力と自己防衛能力がやたら高く、カバンは車道側の肩にかけない(ひったくられるから)とか、知らない人が近づいてきたら背後をとられないようにするなどの行為が自然と身についている。
横浜村でゆったりと暮らすいま、日常的に人を警戒していた動物的習性は完全になくなった。


10年以上前のことである。
関内駅と実家の中間地点にある定食屋に、コビット(だんな)と入った。
コビットはラーメンと麻婆豆腐を、わたしはサバ味噌定食を注文して味わっていた。
食べ終わりそうなタイミングで、コビットが少し先の席に目をやり、箸を止めた。
視線の先を追う。

……………………? ………… ? …… !!!

(だよね?だよね。)
コビットと目を合わせてうなずいた。

強面のアニキの前には、疲れきってやつれているおばはんが座り、アニキから何かの説明を受けていた。

テーブルの上には、拳銃。

2人でグアム旅行をしたときに射撃をしたことがあり、その黒光りの重厚感でホンモノだと確信した。
急いで食べて外に出よう。コビットが小声で早口に言う。
店内の人たちは誰も気づいていないのか?
慌てて白飯をかきこみながら、目だけで周りを探る。
店員は厨房の中。客はそれぞれ当たり前のように食事をしている。
見渡していると、拳銃説明会ブースの隣の席に座る、くたびれたサラリーマン風のおじさんと目が合った。
おじさんは、わたしを見ながらそっと左手の指を少しだけ折り、さりげなくピストルの形を作ってこちらに向けた。
手首を上下に動かし、とてもゆっくりな動作で静かにバーン、バーンと打ってくる。
ウインクを何度もして目配せをし、コイツ拳銃持ってるよ、まじのやつだよ、やべーよ、やべーよと必死に伝えてくる。
ウインクがヘタ過ぎて、半開きの口が曲がり、少し寄り目になっちゃっているがとにかく必死だ。
その姿にコビットも気付き、おじさんをじっと見つめた。

そして急に舌打ちをする。
「なんだよ、アイツ。
なんで、こんな緊迫している場面で、何回も俺に『おまえに食わせるタンメンはねぇ』ってやってくんだよ」



なぜ、そうなるんだ。


河本は、拳銃を見て興奮しているのかタンメンはねぇが止まらない。
「俺食ってんのラーメンだし、イラっとするわ」と立ち上がりそうなコビット。
おい、おい、どこでドンパチを始める気だ。

すると、おじさんがおもむろに手を上げた。
「すみません!」と厨房に声をかける。何を言うのか。緊張が走る。

「すみません、
ごはん、おかわり!」

ダメだ、もう、なんかいろいろ限界だ。
おかわりのごはんを持ってきた店員に、ごちそうしまでしたと声をかけ、とっとと支払いをすませた。

外に出ようとして引き戸を開けると、にわかに信じがたい光景が広がっていた。
ジュラルミンの盾を構えた警官30人ほどに店を包囲されていたのだ。啞然。壮観。
反射的に両手を上げると、警官2人がにじり寄ってきた。刑事ドラマの中に迷い込んだ気分だ。
何か言わなければ。
「な、なかに、け、拳銃を持った人がいます」
声を振り絞った。
「わかりました。ケガはない?」
「は、はい」
「中の人の様子は?」
「えっと、あの、その、あ、おかわりしてました」
警官がざわつく。
拳銃を持った男が人質とともに店の中にこもっていると通報があった、と説明され、警官数人が店内を確認してからぞろぞろと中に入っていった。

どうやらわたしたちは知らぬ間に、人質になっていたようだ。その場で警官の質問攻めに合ってから、ようやく解放された。
ふぅ。ため息が漏れる。

西部警察かと思った。とコビット。

ね。うちの実家さ、ハマスタの近くだから良いんだけど、もうこの辺には住みたくないわー。

そうだな。いやぁ、でもぉ西部警察みたいだったわぁ。とコビットもちょっと興奮している。

これがハマスタから1.6kmの世界だ。一般の人が想像する場所と、現実はだいぶ違うであろう。

こんな環境で育った反動なのか、今は横浜市内の農業地域で静かに暮らしている。

パトカーのサイレンや、○○犯の逃亡者がこの辺りに潜伏している可能性があるのでご注意ください、というヘリコプターからのアナウンスで目が覚めることもなくなった。
早朝に鳥のさえずりで起こされる朝も悪くない。
電線が遮らない空と広い畑とアロハ(むすめ)の笑顔と近所の農家さんからいただく野菜で、毎日お腹も胸もいっぱいだ。

そういえば、無意識のうちに避けていたのか、しばらくタンメンを食べていない。
今日は、近所の農家の方に抜きたてほやほやの玉ねぎをいただいたから、炒めねぎ多めのタンメンでも作ってみようかな。


安心したまえ。おまえに食わせるタンメンもあるぞ。


にこっ。

愛愛